翻訳:綾坂こと
要約: 日本のスマホ新法は、日本においてAppleがブラウザベンダーに対し、独自のブラウザエンジンの使用を認めることを求めている。しかしAppleは、過去21か月間にわたりデジタル市場法における同様の規定への対応を回避するためにEUで用いてきたのと同じ手法を、日本でも使おうとしているようだ。具体的には、既存の日本のユーザーに対して単にアップデートを配信することを認めず、すべての既存ユーザーを切り捨てた上で、まったく新しいブラウザを別にリリースすることをブラウザベンダーに要求している。またAppleは、iPadOSやその他のiOS派生OSにおいては、ブラウザベンダーが独自のエンジンを使用することさえも認めていない。
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OWAについて
新しく読まれる方へ、私たちについて簡単に説明します。私たちOpen Web Advocacyは、あらゆるオペレーティングシステムにおけるブラウザおよびウェブアプリの競争を改善することを目的とした非営利団体です。これまでに、EU、英国、日本、オーストラリア、米国を含む複数の規制当局と連携を行ってきました。
日本のスマホ新法
2024年6月、日本の国会はスマホソフトウェア競争促進法を可決し、成立させました。正式名称はスマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律であり、EUのデジタル市場法 (Digital Markets Act)や、英国のデジタル市場・競争・消費者法案に似た法律です。
本法は、日本のデジタル市場競争本部 (HDMC) による最終報告書を基に策定されました。Open Web Advocacy はこの報告書作成にあたり協議に参加しました。当団体の提出意見書はこちらから閲覧できます。
重要な点として、本法は、Apple が長年にわたり iOS 上で課してきた第三者製ブラウザエンジンの禁止を、直接的に禁止しています。
2025年7月には、日本の公正取引委員会がスマホソフトウェア競争促進法 (MSCA) ガイドラインを公表しました。これは、スマホ法がどのように解釈され、執行されるかを明確にするものです。この点については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
特に、Apple のような指定事業者に対しては、次の点が求められています。
- ブラウザエンジンの禁止は禁止されており、その採用を「妨げる」行為も認められないこと
- 正当化可能な措置を除き、第三者に対して機能的に同等な API アクセスを提供すること
- オペレーティングシステムのデフォルト設定を容易に変更できること
- 初回起動後「速やかに」ブラウザの選択画面を提供すること
本法は、2025年12月18日に全面施行されました。
ブラウザ、ブラウザエンジン、そしてウェブアプリにおける競争環境の改善に向け、長年にわたり尽力してきたデジタル市場競争本部 (HDMC)、日本の公正取引委員会 (JFTC)、ならびにその他の関係者の皆様に、心より感謝を申し上げます。
Appleのブラウザエンジン禁止
過去16年間、Appleはブラウザベンダーが自社のブラウザエンジンをiOSに移植することを禁止してきました。これは App Storeガイドライン 2.5.6 によって規定されています。
2.5.6 Webを閲覧するアプリでは、適切なWebKitフレームワークとWebKit JavaScriptを使用する必要があります。
WebKitは、SafariおよびLinuxやmacOS上のいくつかの小規模ブラウザを支えるエンジンです。
実際には、2.5.6は、Google、Microsoft、Mozilla、Samsung、Vivaldi、Brave、Operaなどが提供するiOS向けブラウザが、他のプラットフォームで行っているように独自エンジンを使用することができないことを意味します。これらのエンジンは開発に何十万時間ものエンジニアリング作業を要しているにもかかわらず、Appleで最も成功している消費者向けOSから排除されています。競合するブラウザベンダーは、Appleが機能を決定するSafariのWebViewという、非常に限定的で改変不可のコンポーネントの外側に外見を被せることしか許されていません。
AppleはiOS上でブラウザの独占状態にあり、これはMicrosoftがIEで成し得なかったことだ Scott Gilbertson - The Register
(強調を追加)
これはさらに「第三者製ブラウザエンジンの禁止」というAppleの別の方針によって悪化している。iPhoneにはChrome、Firefox、Brave、DuckDuckGoなどのアプリをインストールできるが、根本的にはすべてAppleのWebKitエンジンに外見を被せたものに過ぎない。つまりこれは、Safariでどのウェブ機能をサポートするかというAppleの決定が最終的な結果になることを意味する。Appleが競合ブラウザに独自エンジンの実行を認められるようになれば、この緊張の多くは解消されるだろう。 Dieter Bohn と Tom Warren - The Verge
(強調を追加)
したがって、遅れるのは一つのブラウザだけではない。iOS上のすべてのブラウザだ。iOS上のウェブ全体が遅れるのだ。そしてiOSは非常に重要な存在になっているため、結果としてウェブプラットフォーム全体が足を引っ張られている。 Niels Leenheer - HTML5test
(強調を追加)
…iOSではWebKitに文字通り競争相手が存在しない。Appleが競争を許可していないため、Safariを改善するインセンティブは、本来あるべき水準よりもはるかに弱い Chris Coyier - CSS Tricks
(強調を追加)
Gruberが都合よく触れなかったのは、AppleがiOSでサードパーティ製のブラウザエンジンを禁止していることが、ウェブアプリのイノベーションを抑圧しているという点だ Richard MacManus - NewsStack
(強調を追加)
このような禁止を課している他の主要なオペレーティングシステムはありません。Windows、Android、Linux、そしてApple自身のmacOSはいずれも、ブラウザベンダーが独自のエンジンを選択し変更することを可能にしています。iOS上の競合ブラウザは、内部的にはすべてSafariと本質的に同じです。このブラウザに対する禁止はAppleのiOSに固有のものです。
Appleの携帯端末では、すべてのブラウザがAppleのWebKitブラウザエンジンを使用することが、App Storeレビューガイドラインで定められている。Appleはこれにより、自社のモバイルエコシステム内で競合するモバイルブラウザエンジンとの競争に直面することがない。この状況は、Appleがモバイルエコシステム内で代替ブラウザエンジンの使用禁止を解除しない限り変わらない。 CMA - SMS Investigation into Apple’s Mobile Platform - Final Decision
(強調を追加)
日本のスマホ新法は問題を解決するのか
日本の新しい法律は Apple の行為を直接的に禁止しています。では、これで日本のユーザーにとって問題は十分に解決されるのでしょうか。つまり、日本のユーザーは真のブラウザ競争や Web アプリ競争の恩恵を享受できるようになるのでしょうか。
残念ながら、答えは「いいえ」である可能性が高いと言わざるを得ません。その理由は、Appleがこの法律にどのように対応したかにあります。Appleは、EUで用いたのとまったく同じ戦略を採用しています。EU では、ブラウザベンダーが独自のエンジンを使用できるようにすることが 21 か月前から義務付けられているにもかかわらず、いまだにどのブラウザベンダーも自社エンジンを iOS に移植できていません。
EUのデジタル市場法(DMA)とAppleの回避行為
Appleは、2024年3月7日以降、EU内においてiOS上でブラウザベンダーが独自のエンジンを使用できるようにすることを義務付けられています。これはEUのデジタル市場法(DMA)に基づくものです。
ゲートキーパーは、ビジネスユーザーが当該ゲートキーパーの中核的プラットフォームサービスを利用して提供するサービスに関して、エンドユーザー又はビジネスユーザーに対し、当該ゲートキーパーの識別サービス、ウェブブラウザエンジン若しくは決済サービス、又は決済サービスの提供を支援する技術的サービス(アプリ内課金のための決済システム等)を利用し、提供し、又はこれらと相互運用することを義務付けてはならない。 デジタル市場法 第5条7項
(強調を追加)
GoogleとMozillaは、それぞれのブラウザエンジンであるBlinkとGeckoをiOSへ移植し始めました。他のブラウザベンダーは、通常その製品がBlinkやGeckoのソフトフォーク(改変を加えたコピー)であり、自社エンジンをiOS上のブラウザに導入するには、これらの移植に依存しています。
しかし、Appleの契約条件および技術的制約には重大な問題があり、ブラウザベンダーにとってiOSへのエンジン移植を「可能な限り苦痛なもの」にしていました。
Appleの提案は、他社がSafariと競争できる製品を提供することを可能な限り困難にすることで、消費者に実行可能な選択肢を与えていない。これは、AppleがiOS上で真のブラウザ競争を妨げる障壁を設けている、もう一つの例である Damiano DeMonte - Mozilla
(強調を追加)
Appleが設けている多くの障壁は、セキュリティおよびプライバシー上の理由という曖昧な説明に依拠しており、その必要性や比例原則への準拠性について、Appleは詳細な技術的根拠を一切公表していません。米国司法省は、訴状の中で次のように述べています。
結局のところ、Appleはプライバシーとセキュリティという正当化を、Apple自身の財務的および事業上の利益にかなうように変形可能な盾として用いている Appleに対する司法省の訴状
(強調を追加)
2025年のDMAワークショップにおいて、私たちはiOS上で第三者製ブラウザエンジンを提供することを妨げている主な要因について、Appleに直接提起しました。Appleは、「GoogleやMozillaのようなベンダーはEUでブラウザエンジンを提供するために『必要なものはすべて揃っている』にもかかわらず、単に『そうしない選択をしているだけだ』」と主張しました。
DMAの下で、私たちは変化を強いられていることを認識しています。そして、セキュリティとプライバシー、OSの完全性に配慮したプログラムを作り、GoogleやMozillaといった第三者が自社のブラウザエンジンをプラットフォームに持ち込めるようにしました。にもかかわらず、彼らは何らかの理由でそうしない選択をしているのです。 Kyle Andeer - Apple バイスプレジデント(法務担当)
(強調を追加)
Appleは、少なくとも2024年6月の時点で、これらの障壁を完全に把握していました。私たちがそれらを徹底的に詳述した時点です。複数のブラウザベンダーも、同じ問題をAppleに直接伝えています。Appleが問題を把握していないという主張は、単に荒唐無稽なだけでなく、明確に虚偽です。Appleは問題点を正確に理解しています。単に、それに対処することを拒否しているのです。
現在もiOS上で第三者製エンジンを阻んでいる、最も重要な障壁には次のものがあります。
- 既存のEUユーザーの切り捨て: Appleは、独自エンジンを使用するために、ブラウザベンダーに全く新しいアプリの作成を強制します。これは、既存のEUユーザーをすべて切り捨て、ゼロからやり直さなければならないことを意味します。
- Web開発者によるテスト: Appleは、EU外のネイティブアプリ開発者に対してEU向けの特有の機能をテストすることを認めている一方で、iOS上でサードパーティ製ブラウザエンジンを使ってソフトウェアをテストするための仕組みは提供していません。Appleはワークショップの場で、この点については今後アップデートがあると述べたものの、それ以降、具体的な詳細は一切示されていません。
- EU外への長期旅行中の更新停止: Appleは、EUのユーザーが30日以上EU外に滞在した場合に、ブラウザの更新(セキュリティパッチを含む)を無効化しないことを承認していません。これはセキュリティ対策とは程遠く、むしろ更新が行われないことでユーザーのセキュリティを積極的に低下させます。
- 敵対的な契約条件: Appleが課す契約条件は厳しく一方的なものであり、APIアクセスに関する規則は厳密な必要性を持ち比例原則に則ったセキュリティ対策に限られるべきだとするDMAの要件と矛盾しています。
Appleは、私たちの当初の論文で指摘した問題のうち、2点については対応しました。
- デュアルエンジンのサポート: Appleは、同一アプリ内でWebKitと独自エンジンの両方を含めることを許可するようになりました。これは、フォールバック互換性を維持しながら新しいエンジンを導入するために不可欠です。
- ブラウザベンダー自身によるテストの許可: Appleは、ブラウザベンダーがEU外で自社エンジンをテストすることを許可しました。はい、その通りです。Appleは当初、Google、Mozilla、Microsoftが自社ブラウザをテストすることすら阻止しようとしていました。
しかし、最も重要な障壁は依然として堅く残っています。Appleは今なお、WebKit以外のエンジンを提供しようとするブラウザベンダーに、既存のEUユーザーをすべて放棄することを強制しています。このたった一つの要件があるだけで、iOSにエンジンを移植する事業上の合理性は完全に失われます。完全なブラウザエンジンの構築と維持は大規模な取り組みです。たとえそれがEUという大きな地域であったとしても、1つの地域でユーザーゼロから開始することが要求されるのであれば、商業的に成り立ちません。
その代わりに、開発者にとっての取引コストや間接費は下がるどころかむしろ上昇する。なぜなら、EU向けと世界のその他地域向けに異なるバージョンのアプリを開発しなければならないからだ。それに加えて、例えば(もともとはApple独自のWebKitを使っていた)自社のブラウザに独自のブラウザエンジンを組み込む可能性を行使する場合、Appleの承認を受けるために別個のバイナリを提出しなければならない。それはまさに何を意味するのか。開発者は新しいバージョンのアプリを配布し、ゼロから顧客を「再獲得」しなければならないということだ。 Alba Ribera Martínez - 競争法およびデジタル市場法に関する博士・講師
(強調を追加)
なぜこれはDMAに準拠していないのか
表面的には、Appleはデジタル市場法(DMA)第5条7項の文言を遵守しているように見えます。しかし、技術的には第三者製エンジンを許可しているものの、実際は移植を事実上不可能にする技術的なプラットフォーム制約や契約条件の下でしか第三者製エンジンを許可していません。
ゲートキーパーは、本規則の第5条、第6条および第7条に定められた義務の遵守を確保し、かつそれを実証しなければならない。当該各条の遵守を確保するためにゲートキーパーが講ずる措置は、本規則および当該義務の目的を達成するうえで実効性を有するものでなければならない。 デジタル市場法 第8条1項
(強調を追加)
ゲートキーパーは、その行為が契約上、商業上若しくは技術上の性質又はその他の性質を有するか否かを問わず、並びに行動手法又はインターフェースの設計の使用によるものであるか否かを問わず、第5条、第6条及び第7条の義務への実効的な遵守を阻害するいかなる行為も行ってはならない。 デジタル市場法 第13条4項
(強調を追加)
これら二つの条文は、Appleが単に理論上代替エンジンを許可するだけでは不十分であることを明確にしています。措置は条文の目的を達成するうえで実効性のあるものでなければならず、Appleは技術的または契約上の手段によってそれらの目的を損なってはなりません。
この規定の趣旨は、DMAの前文(Whereas条項)において明確に示されています。
特に、各ブラウザはウェブブラウザエンジン上に構築されており、そのエンジンは速度、信頼性、ウェブ互換性といったブラウザの中核的機能を担っている。ゲートキーパーがウェブブラウザエンジンを運営し、かつそれを強制する場合、ゲートキーパーは、自社のウェブブラウザだけでなく、競合するウェブブラウザ、さらにはそれらの上で動作するウェブソフトウェアアプリケーションに適用される機能や標準を決定できる立場にある。したがって、ゲートキーパーは、その地位を濫用して、自己に依存するビジネスユーザーに対し、当該ビジネスユーザーによるサービスまたは製品の提供の一環として、当該ゲートキーパー自らがコアプラットフォームサービスと併せて又はこれを支援して提供するいかなるサービスについても、そのの利用を要求すべきではない。 デジタル市場法 前文(Whereas条項)その43
(強調を追加)
言い換えれば、Appleは競合ブラウザおよびそれらが支えるウェブアプリにおいて、どのような機能、性能、標準が採用されるかを支配できる立場にあってはなりません。この規定の目的は、ブラウザベンダーが自らのエンジンを実装する自由を確保することにより、競合ブラウザやその上に構築されるウェブアプリの性能、機能、標準をAppleが支配する能力を排除することにあります。
DMAが施行されてから21か月が経過しましたが、競合するエンジンをiOSに移植することに成功したブラウザベンダーは一社もありません。Appleが設けた財務的、技術的、契約的障壁は依然として克服不可能なまま立ちはだかっています。これらの制約は、厳密に必要かつ比例原則に則ったセキュリティ上の正当化に基づくものではありません。
これは実効的な遵守の姿ではありません。第5条7項の「エンジンレベルの競争を可能にし、Appleによる機能性や安定性の上限からウェブアプリを解放する」という目的は達成されていません。第8条1項および第13条4項に照らせば、これはAppleがDMAに準拠していないことを意味します。
日本におけるAppleの対応策
12月17日、Appleがスマホ新法への準拠を求められる期限の1日前に、Appleはこのページと、日本で独自エンジンを使用したいブラウザ向けの新しい契約を公開しました。同日には、EUで独自エンジンを使用したいブラウザ向けの契約も更新されています。
日本向けの契約内容は、EU向けのものとほぼ同一です。ただしAppleは、ブラウザ競争を認めることを法的に求められている地域ごとに、ブラウザベンダーが個別に申請し、契約の締結を行うつもりのようです。
幸いなことに、Appleはブラウザベンダーに対して、地域ごとに完全に別個のブラウザを用意することまでは強いていません。ブラウザベンダーは、EUで使用しているものと同一のブラウザを日本でも使用できます。
日本内でOS上でのみ配布されること(ただし、開発者契約(その付属書を含む)に基づきAppleが明示的に許可し、かつ対応するエンタイトルメントプロファイルを取得している他の法域またはAppleプラットフォームを除く) 日本でのアプリ配信のためのWebブラウザエンジンエンタイトルメントに関する追加契約
(強調を追加)
欧州連合内でiOSおよびiPadOS上、もしくはその両方でのみ配布されること(ただし、開発者契約(その付属書を含む)に基づきAppleが明示的に許可し、かつ対応するエンタイトルメントプロファイルを取得している他の法域またはAppleプラットフォームを除く) EUでのアプリ配信のためのWebブラウザエンジンエンタイトルメントに関する追加契約
(強調を追加)
また、AppleはiPadOS上でブラウザベンダーが独自エンジンを使用することを認めていないように見えます。iPadOSは、画面サイズの拡大やApple Pencilへの対応といった軽微な変更を加えた、iOSの派生版です。
Appleはまた、最も重要な制約を明確に維持しています。ブラウザベンダーに対して、日本の既存ユーザーを独自エンジンへアップグレードすることを認めていません。代わりに、まったく新しいブラウザを提出し、ユーザー数ゼロからやり直すことを求めています。
これは、Appleが過去21か月間にわたってEUでブラウザ競争を抑圧するために用いてきたのと同じ手法です。日本においてもこれが認められてしまえば、残念ながらこの法律が日本で実効的なブラウザ競争を実現することは阻まれてしまうでしょう。
この戦略は日本のスマホ新法に準拠しているのか?
法第8条第3号は、アプリストアに係る指定事業者が、当該アプリストアに関し、指定事業者等が提供するブラウザエンジンを個別アプリ事業者がその個別ソフトウェアの構成要素とすることを当該アプリストアの利用条件とすることのほか、代替ブラウザエンジン(指定事業者等が提供するブラウザエンジン以外のブラウザエンジンをいう。以下同じ。)を個別アプリ事業者がその個別ソフトウェアの構成要素とすることを妨げることを禁止し、個別アプリ事業者による多様な個別ソフトウェアの提供を通じ、個別ソフトウェアに係る競争を促進しようとするものである。[...]
なお、アプリストアの利用条件として、指定事業者等が提供するブラウザエンジンをブラウザに採用(個別ソフトウェアの構成要素とすることをいう。以下(3)において同じ。)することを強制する又は代替ブラウザエンジンの採用を妨げること(想定例については後記ウ参照。)については正当化事由が認められない。
法第8条第3号ロの「妨げる」とは、個別アプリ事業者が指定事業者のその指定に係るアプリストアを通じて個別ソフトウェアを提供する際に、当該個別ソフトウェアに代替ブラウザエンジンを採用することを困難にさせる蓋然性の高い行為をいう。 そうした行為には、代替ブラウザエンジンを採用すること自体は認めつつ、個別アプリ事業者に合理的でない技術的制約や契約の条件を課すこと、個別アプリ事業者に過度な金銭的負担を課すこと、スマートフォンの利用者に対して代替ブラウザエンジンを採用する個別ソフトウェアを利用しないように誘導することなどによって、個別アプリ事業者が代替ブラウザエンジンを採用することを実質的に困難にさせる蓋然性の高い行為を含む。
指定事業者の行為が代替ブラウザエンジンの採用を妨げる行為に該当するためには、個別アプリ事業者が代替ブラウザエンジンを採用することが完全に不可能であることまでが必要とされるわけではなく、そうした結果が発生する蓋然性の程度により、(中略)総合的に判断される。 スマホソフトウェア競争促進法に関する指針
(強調を追加)
EUと同様に、日本においても、ブラウザベンダーが名目上は独自のブラウザエンジンの使用を認められているものの、それが経済的に実行不可能であり、日本の利用者や事業者にとって有意義な利益をもたらす可能性が低い条件の下でのみ許容されるといった、規制の趣旨を潜脱する試みが想定されています。
本法は、代替ブラウザエンジンの採用を「妨げる」行為を禁止しています。スマホソフトウェア競争促進法に関する指針は、指定事業者のアプリストアを通じてソフトウェアを配信する際に、アプリ提供者が代替ブラウザエンジンを組み込むことを困難にする高い蓋然性を生じさせる行為を、代替ブラウザエンジンの採用を「妨げる」行為として定義しています。これには、不当な技術的制約を課すこと、代替エンジンの採用を試みるアプリ提供者に対して過度な経済的負担を課すこと、ならびに当該エンジンを使用するソフトウェアの利用からスマートフォン利用者を遠ざけるよう誘導する行為が含まれます。
代替ブラウザエンジンの採用を妨げる行為に該当するかどうかの判断において、採用が完全に不可能であることは要件とされていません。重要なのは、その行為によって現実的な困難をもたらす可能性がどの程度高いかという点です。
既存のブラウザを独自のブラウザエンジンに切り替える更新が認められず、これまでに獲得した日本の利用者をすべて失い、ゼロから新たなブラウザを制作し、利用者に新規インストールを求めなければならないという要件は、ブラウザベンダーが独自のブラウザエンジンを採用することを事実上妨げるものです。
公表されているガイドラインは、アプリ提供者による代替ブラウザエンジンの組込みを困難にする高度の蓋然性を生じさせているAppleの行為に、明確に適用されるものといえます。このような妨害の蓋然性を判断するにあたっては、EUの状況も参考とすることができます。先述の通り、EUでは、Appleがこれと同等の仕組みを実施していますが、DMAの下で、独立したブラウザエンジンの移植に成功したブラウザベンダーは一社も存在していません。
どのように修正すればよいか
最も重要な修正点は、ブラウザベンダーが日本の既存ユーザーを自社エンジンへアップグレードすることを認めないというAppleの要求を否定することです。そのうえで、Appleが法に適合するための現実的な選択肢として、次の三つが考えられます。
解決策A:ブラウザエンジンを全世界で許可する
Appleが、独自エンジンを用いたブラウザ同士の公正な競争をグローバルに認めるという選択肢です。これは、真に公正な競争を実現できる唯一の解決策でもあります。
公正取引委員会がこのような世界規模の解決策を強制できる可能性は低いですが、その結果として生じている複雑さは、競争を法的に認めざるを得ない地域にのみ限定するというApple自身の選択によって生まれているものです。
解決策B:1つのバンドルIDに2つのバイナリ
ブラウザベンダーが、1つのアプリケーション(1つのバンドルID)の下で、2つの署名済みバイナリを提供できるようにします。これら2つのバイナリは次のとおりです。
- 一つ目:自社エンジンを含む実際のブラウザ本体を収録した署名済みバイナリ。日本やEUのような、Appleがブラウザにエンジンの選択・改変を許可することを法的に義務付けている規制法域向けに配布されます。
- 二つ目:AppleのWKWebView(WebKit)を使用することを強制されたブラウザ版を収録した署名済みバイナリ。他の規制法域向けに配布されます。
そのうえで、オペレーティングシステムが地域に基づいて、エンドユーザーにどちらのバイナリを配信するかを選択します。これにより、すべての既存ユーザーを新しいエンジンへ更新することが可能になります。
解決策C:トグル付きグローバル・デュアルエンジン・バイナリ
ブラウザベンダーが、自社エンジンとWKWebViewの両方を含む単一のバイナリを、全世界に配布できるようにします。まだ競争を認めることをAppleに強制していない規制法域ではWKWebViewを使用し、すでに強制している法域では自社エンジンを使用します。
Appleは、ブラウザアプリに対して「独自エンジンの使用が許可されているかどうか」を示すことができ、その情報に基づいてブラウザ側が自社エンジンを使用するかどうかを判断できます。この解決策が機能するために必要な技術的変更は、おそらくごく小規模なものです。法的に求められるとおり、ブラウザベンダーが自社エンジンを使用できるかどうかを検知する仕組みをAppleが提供することが必要になるだけです。それ以外については、Apple側で技術的な変更はほとんど不要で、契約内容を更新するだけで済むでしょう。
なぜウェブが勝つ必要があるのか
AppleによるiOSにおける第三者製ブラウザエンジンの禁止が終わることは、極めて大きな意味を持ちます。最初の結果として、Safariは激しい競争圧力にさらされることになります。SafariはAppleにとって最も利益率の高い製品であり、Appleがこれを放棄することはないでしょう。現在のSafariの予算は、その生み出す収益に比べてごくわずかであり、予算を2倍や3倍にすることも厭わないでしょう。実際、規制当局が他のブラウザベンダーが独自エンジンを使用することを許可させようとする規制当局の脅威に対して、Appleが予算と活動を大幅に増やしてきた様子はすでに確認されています。
より強力なiOS向けブラウザが、ウェブアプリの基盤として利用可能になります。インストールプロンプト、完全に動作し機能が揃ったプッシュ通知、そしてより高い安定性といった機能は、ウェブアプリの実用性と存続可能性を根本的に変えるものです。突然、開発者はAppleのApp Storeに代わる、実行可能で相互運用性のある選択肢を手にすることになります。ウェブは、デスクトップと同様に、モバイルでも有力な存在になり得るのです。
Appleは長年、ウェブアプリこそがApp Storeの代替であると主張してきました。また、同社のルールの冒頭にも、オープンなインターネットが代替であると明記されています。
また、App Store以外では、いつでもオープンインターネットをご利用いただけます。App Storeのモデルとガイドライン、または代替配信とiOSおよびiPadOSアプリの公証がご自身のアプリやビジネスモデルにとって最適ではない場合でも、AppleではSafariを通じて優れたWeb体験を提供しています。 Apple App Store ルール
(強調を追加)
この変更によって、Webアプリは真に有力で実用的な代替手段になります。裏を返せば、それが実現されるまでは、「常にオープンなインターネットがある」というAppleの口実は、自社のApp Storeが持つ独占的な支配力を隠す役割を果たしているにすぎないのです。
法務の専門家は、EUがDMAに対するAppleの不誠実な遵守に異議を申し立てると予想しているが、開発者はこの機会に、ネイティブアプリによる農奴制について見直すべきだ。ウェブアプリを限界まで押し上げ、そのうえでプラットフォームのさらなる改善を要求すべきである。ウェブは、手数料の支払いも、利用量に基づく技術的な料金も、プラットフォームの支配者からの許可も必要としない。Appleがそうしなかったとしても、ウェブはiPhoneを自由にできる。 Thomas Claburn - The Register紙 記者
(強調を追加)
私たちは、デジタル市場競争本部および公正取引委員会の不断の取り組みに深く感謝します。同時に、AppleがEUで用いたのと同じ戦術を日本でも再現しようとする可能性を強く懸念しています。これらの戦術は、ブラウザエンジン間の実効的な競争を可能にするというデジタル市場法の目的を損なってきました。
私たちは公正取引委員会に対して、Appleによってブラウザベンダーが既存の日本のユーザーを自社エンジンへアップグレードすることを妨げられる事態を許可しないことを求めます。また、スマホ新法がブラウザエンジンに関する目標を確実に達成し、このような戦術によって形骸化しないよう、公正取引委員会が確実に執行することを求めます。さらに、相互運用性の観点から、iPadOSやその他のiOSの派生OSにも同様の要件を課すことを検討するよう求めます。
この執行は、デジタル市場競争本部による過去の報告書が指摘した重大な競争上の問題を是正することで、日本の消費者と日本の事業者の双方に利益をもたらすでしょう。